「内部通報の窓口はあるが、規程まではまだ作っていない」――法務や人事の現場で、そうした状態が残っている会社があります。
公益通報者保護法は、常時使用する労働者が300人を超える事業者に体制整備を義務づけています。条文は規程の作成を直接求めていませんが、内閣府告示の指針が内部規程への明記と、その定めに従った運用を求めています。
2026年12月1日には改正法が施行されます。従事者を定めない場合の命令と罰金が新設され、保護される通報者にフリーランスが加わります。
通報から1年以内の解雇や懲戒は、通報を理由とするものと推定される規定も入ります。
本記事では、規程に定める項目と従事者の指定を図解で整理します。改正で見直しが必要になる箇所、窓口を社内と社外のどちらに置くかの判断材料もあわせて紹介します。
内部通報規程は体制整備義務を形にした社内ルール
内部通報規程は、公益通報者保護法が求める通報対応の仕組みを、社内で運用できる文書にした社内ルールです。規程の中身より先に、誰にどの義務があるかを押さえると理解が進みます。義務の区分は次の表のとおりです。
| 事業者の規模 | 従事者の指定(第11条第1項) | 体制整備(第11条第2項) |
|---|---|---|
| 常時使用する労働者が300人を超える | 義務 | 義務 |
| 常時使用する労働者が300人以下 | 努力義務 | 努力義務 |
常時使用する労働者が300人を超える事業者には体制整備義務がある
常時使用する労働者の数が300人を超える事業者には、公益通報者保護法第11条にもとづく義務があります。公益通報とは、勤務先の法令違反を不正の目的なく通報する行為です。同条第1項は通報を受け付けて調査や是正にあたる担当者の指定を、第2項は通報に対応する体制の整備を求めています。
第2項の義務が体制整備義務と呼ばれ、窓口の設置や社内ルールづくりが中身にあたります。人数には、臨時的に雇い入れた場合を除き、パートタイム労働者やアルバイトも含まれます。派遣労働者は派遣先と派遣元の双方で数に入ります。
出典:消費者庁「公益通報者保護制度Q&A」
規程は義務そのものではないが実務上の中心になる
公益通報者保護法の条文には、規程を作成せよという定めはありません。条文が求めるのは担当者の指定と体制の整備であり、文書の形式までは定めていません。一方、法第11条第4項は、内閣総理大臣が指針を定めると規定しています。
指針(令和3年内閣府告示第118号)は、指針が求める事項を内部規程に定め、規程の定めに従って運用するよう事業者に求めています。義務の対象となる事業者は指針を守る必要があるため、規程づくりが実務の中心になります。消費者庁は、民間事業者向けの内部規程サンプルも公表しています。
出典:消費者庁「指針の公表について」
300人以下の事業者は努力義務
常時使用する労働者の数が300人以下の事業者では、第11条第1項と第2項が努力義務に変わります。条文は「定めなければ」を「定めるように努めなければ」と読み替える構造をとります。努力義務は、取り組む姿勢を求める規定です。
ただし、従業員が増えて300人を超えた時点で、義務の対象に移ります。事業の拡大を見込む企業では、300人に届く前から規程と窓口を整えておくと負担が小さくなります。規程の整備は、規模にかかわらず社内の不正を早い段階で把握する手立てとして役立ちます。
出典:e-Gov法令検索「公益通報者保護法」
内部通報規程に定める項目
内部通報規程に何を書くかは、消費者庁の指針が土台になります。指針は、求められる事項を内部規程に定め、その定めに従って運用するよう事業者に求めています。項目を先に整理しておくと、条文づくりで迷いにくくなります。
指針が求める措置を規程の項目に置き換えると、次のように整理できます。
| 項目 | 定める内容 |
|---|---|
| 目的 | 法令遵守の推進と通報者の保護という、規程を設ける狙い |
| 適用範囲 | 規程を利用できる人の範囲(労働者、派遣労働者、役員、退職者など) |
| 通報対象事実 | 通報を受け付ける法令違反の範囲 |
| 通報窓口 | 窓口の設置と、受付・調査・是正を担う部署および責任者 |
| 従事者 | 公益通報対応業務に従事する者として定める範囲と、定め方 |
| 独立性の確保 | 組織の長や幹部が関係する事案で、独立性を保つための取り決め |
| 利益相反の排除 | 事案に関係する者を対応業務に関与させない仕組み |
| 通報方法 | 電話、電子メール、書面、面談など、通報を受け付ける手段 |
| 受付・調査の手順 | 受付から調査までの流れと、調査への協力義務 |
| 是正措置 | 法令違反が判明した場合の是正と、措置が機能しているかの確認 |
| 通報者への通知 | 調査の結果や是正措置の内容を通報者へ知らせる方法 |
| 通報者の保護 | 不利益な取扱いの禁止と、違反した者への懲戒 |
| 秘密保持 | 通報者を特定させる事項の共有範囲と、通報者の探索の禁止 |
| 記録の保管 | 対応記録の作成、保管期間、閲覧の制限 |
| 教育・周知 | 労働者、役員、退職者への周知と、従事者への教育 |
| 評価・点検と開示 | 体制の定期的な点検と、運用実績の概要の開示 |
この中から、担当者の判断が分かれやすい3つの項目を掘り下げます。
通報できる人と通報の対象になる事実
適用範囲は、公益通報者保護法第2条第1項が定める人の範囲をもとに決めます。同項が公益通報者として挙げるのは次の人たちです。
- 自社の労働者と派遣労働者
- 請負契約などに基づき自社の事業に従事する取引先の労働者
- 役員
労働者と派遣労働者には、通報の日より前の1年以内に働いていた退職者も含まれます。通報対象事実とは、通報の対象になる法令違反を指す法律上の言葉です。同条第3項は、別表に掲げる法律に規定する罪の犯罪行為の事実などを挙げています。対象となる法律は別表で列挙されています。
出典:消費者庁「公益通報者保護法と制度の概要」
通報を受けてから是正までの流れ
規程には、対応の流れを「受付→調査→是正措置→通報者への通知」の4段階で書きます。指針は、正当な理由がある場合を除いて必要な調査を実施し、法令違反行為が明らかになったときは速やかに是正措置をとるよう求めています。
是正後にその措置が機能しているかを確認する手順も、あわせて定めます。通知は指針で「速やかに」と定められており、日数の期限はありません。指針の解説は、受付から20日以内に調査開始の有無を伝える取り組みを、望ましい例として挙げています。
出典:消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針」
通報者を守るための定め
通報者の保護では、3つの禁止事項を軸に規程を組み立てます。不利益な取扱い、範囲外共有、通報者の探索の3つです。
公益通報者保護法第3条は公益通報を理由とする解雇を無効とし、第5条は降格や減給などの不利益な取扱いを禁じています。範囲外共有とは、通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有する行為を指します。通報者の探索は、通報者を特定しようとする行為です。指針は、どちらも防ぐ措置と、行った者への懲戒処分を求めています。
出典:消費者庁「逐条解説 第5条(不利益取扱いの禁止)」/消費者庁「公益通報ハンドブック」
公益通報対応業務従事者の指定
内部通報規程を整えるときに見落とされやすいのが、公益通報対応業務従事者の指定です。公益通報者保護法は、従事者を定める義務を事業者に課しています。従事者本人には刑事罰つきの守秘義務がかかるため、指定の範囲と方法を押さえておきましょう。
従事者を定めることが義務になっている
従事者の指定は、公益通報者保護法が事業者に課した法律上の義務です。同法第11条第1項は、通報の受付から調査・是正までの公益通報対応業務に従事する者を定めなければならないと規定しています。従事者とは、この業務の担当者として事業者が指名した人を指します。窓口の担当者が実務を担っていても、指名の手続がなければ義務を果たしたとはいえません。なお常時使用する労働者が300人以下の事業者では、同条第3項により努力義務となります。
従事者には刑事罰つきの守秘義務がある
従事者には、刑事罰で担保された守秘義務がかかります。同法第12条は、正当な理由がなく、公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならないと定めます。違反した場合の罰則は同法第21条にあり、30万円以下の罰金です。2026年12月1日施行の改正では罰則の条文が増えるため、条番号が変わります。
罰金を科されるのは会社ではなく、漏らした担当者個人になります。義務は在職中に限られず、従事者であった者にも及びます。指定された担当者には、通報者の氏名や社員番号の扱い方を事前に教育しておきましょう。
従事者の守秘義務は、就業規則などに基づく一般の秘密保持義務とは性質が違います。両者の違いを次の表に整理しました。
| 項目 | 従事者 | 従事者以外 |
|---|---|---|
| 義務の根拠 | 公益通報者保護法第12条 | 就業規則や内部規程などの社内ルール |
| 守る対象 | 公益通報者を特定させる事項 | 業務上知り得た秘密(範囲外共有の禁止を含む) |
| 違反したときの責任 | 30万円以下の罰金(同法第21条) | 懲戒処分など社内の処分 |
| 義務が続く期間 | 従事者でなくなった後も継続 | 社内ルールの定めによる |
出典:消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」
誰をどう指定するか
指定すべき相手は、内部通報窓口で受け付けた通報について公益通報対応業務を行い、かつ通報者を特定させる事項を伝えられる人です。指針は、所属部署の名称ではなく実質で判断するよう求めています。
指定の方法は、書面による指定など、従事者の地位に就くことが本人に明らかとなる方法によると定められています。内部規程で部署や役職を指定する形も認められますが、本人への明示は欠かせません。窓口を外部に委託する場合も、委託先の担当者に同じ方法で指定が求められます。
2026年の改正で規程の見直しが必要になる
公益通報者保護法の改正法は2025年6月11日に公布され、2026年12月1日に施行されます。従事者の指定義務に刑事罰が加わり、解雇や懲戒の立証責任も変わります。保護される通報者にはフリーランスが加わるため、内部通報規程の見直しが求められます。
改正前と改正後の主な違いを、項目ごとに整理します。
| 項目 | 改正前 | 改正後(2026年12月1日〜) |
|---|---|---|
| 従事者指定義務違反への措置 | 助言・指導、勧告、勧告に従わない場合の公表 | 勧告に従わない場合の命令を新設。命令違反は30万円以下の罰金(法人も同額) |
| 調査権限 | 報告徴収のみ | 立入検査を新設。検査拒否・虚偽報告は30万円以下の罰金 |
| 解雇・懲戒の立証責任 | 通報者側が「通報を理由とする処分」だと立証 | 通報から1年以内の解雇・懲戒は通報を理由とすると推定 |
| 解雇・懲戒への刑事罰 | 規定なし | 6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。法人は3,000万円以下の罰金 |
| 保護される通報者 | 労働者、派遣労働者、退職後1年以内の者、役員 | 上記に加えフリーランス(業務委託終了後1年以内を含む) |
| 通報妨害・通報者探索 | 規定なし | 正当な理由のない妨害と探索を禁止。妨害の合意は無効 |
表の内容をふまえると、規程で手を入れる箇所は次の5点です。
- 従事者の指定に関する条項(労働者300人超の事業者は命令と罰金の対象)
- 保護対象者の範囲(フリーランスと業務委託終了後1年以内の者を追加)
- 不利益取扱いの禁止条項(推定規定と刑事罰の位置づけを明記)
- 通報妨害と通報者探索の禁止条項(新設)
- 周知の対象と方法(フリーランスを含めた受付窓口の周知)
従事者を定めないと刑事罰の対象になる
常時使用する労働者が300人を超える事業者が従事者を定めない場合、罰金の対象になります。従事者とは、通報の受付や調査を担当し、守秘義務を負う担当者を指します。改正法は助言・指導と勧告に加え、勧告に従わないときの命令権限を新設しました。
命令に違反すると30万円以下の罰金が科されます。法人にも同額の罰金を科す両罰規定も置かれました。立入検査の拒否や虚偽の報告も同じ罰金の対象です。労働者300人以下の事業者は、従来どおり努力義務にとどまります。
出典:e-Gov法令検索「公益通報者保護法(令和8年12月1日施行)」/消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)の概要」
通報を理由とする解雇や懲戒の扱いが変わる
公益通報から1年以内の解雇や懲戒は、公益通報を理由とするものと推定されます。ここでの懲戒には、就業規則や労働契約で定めた制裁が含まれます。事業者が外部への通報を知って処分した場合は、知った日から1年以内が基準です。
推定が働くと、通報と無関係だと示す責任は事業者側へ移ります。さらに、公益通報を理由に解雇や懲戒をした者への罰則として、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が新設されます。法人には3,000万円以下の罰金が科されます。
出典:消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律 新旧対照条文」
保護される通報者の範囲が広がる
フリーランスが新たに公益通報者へ加わります。改正法は、業務委託を受ける特定受託業務従事者と、業務委託の終了から1年以内の元受託者を対象に加えました。特定受託業務従事者とは、従業員を雇わず個人で業務委託を受けて働く人を指します。
通報を理由とする業務委託契約の解除や報酬の減額などの不利益な取扱いは禁じられます。法定指針も改正され、受付窓口の周知はフリーランスにも行います。社外の担当者を規程の保護対象として明記する必要があります。
出典:消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律」(法律本文)
通報窓口を社内と社外のどちらに置くか
内部通報規程では、通報窓口を社内に置くか社外に置くかを明記します。どちらにも向き不向きがあり、両方を併設する企業も少なくありません。消費者庁の指針が求める独立性の確保を軸に、自社に合う置き方を選びます。
社内窓口は事情がわかる一方で心理的な壁がある
社内窓口の強みは、社内の事情を把握したうえで素早く調査に入れる点です。業務の流れを知る担当者が受け付けるため、事実確認の初動が早くなります。
一方で、身元の発覚を恐れて通報をためらう人が出る面もあります。消費者庁は、人事部門に窓口を置くこと自体は妨げないとしつつ、躊躇する人がいるために問題の早期把握が遅れるおそれへの留意を求めています。
心理的な壁を下げる手立てが匿名での受付です。消費者庁は、匿名の内部公益通報も受け付ける必要があるとしています。
出典:消費者庁「公益通報ハンドブック」
社外窓口は独立性を保ちやすい
社外窓口の利点は、外部の法律事務所や専門機関が受け付けることで独立性を保ちやすい点です。独立性の確保とは、組織の長や幹部の影響で通報対応がゆがまない状態を保つ仕組みを指します。
指針は、組織の長その他幹部に関係する事案について、幹部からの独立性を確保する措置をとるよう定めています。令和5年度の消費者庁調査では、内部通報制度を導入する2,448者のうち79%が外部に窓口を設けていました。
一方で委託料が継続して発生するため、費用負担の見通しも踏まえて窓口の形を決めます。
規程を設計するときに比べたい項目ごとに、社内窓口と社外窓口の違いを整理します。
| 項目 | 社内窓口 | 社外窓口 |
|---|---|---|
| 独立性 | 幹部の影響を受けやすい | 第三者が受け付けるため確保しやすい |
| 調査の着手 | 社内事情がわかり初動が早い | 事実確認を社内に引き継ぐ手間がかかる |
| 通報者の心理的な負担 | 身元の発覚を恐れて使いにくい | 面識のない相手のため使いやすい |
| 費用 | 既存の人員で運用でき抑えやすい | 委託料が継続して発生する |
| 秘密保持 | 社内の共有範囲が広がりやすい | 共有範囲を絞りやすい |
| 匿名通報 | 匿名でのやり取りに工夫が要る | 氏名を伝えない仕組みを使いやすい |
出典:消費者庁「民間事業者の内部通報対応 実態調査結果概要」
経営陣が関わる通報に備える
組織の長や幹部が関わる通報には、通常とは別のルートを規程に用意します。受付から調査まで同じ経路のままでは、影響力の行使を防ぎきれません。
消費者庁の指針の解説は、独立性を確保する方法として、社外取締役や監査機関にも報告を行う形を挙げています。監査機関には、監査役や監査等委員会、監査委員会が含まれます。
解説は、窓口を事業者の外部に設置する方法も、独立性を確保する手段の一つとして示しています。規程には、幹部が関係する事案の受付先と報告先を具体的に書いておきます。
出典:消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」
規程を作った後にやること
内部通報規程は、作っただけでは現場に通報が届きません。消費者庁の指針は、周知や従事者教育から記録の保管、運用実績の開示までを事業者に求めています。規程の施行後にやることを、順番に整理します。
規程の施行後に必要な運用を、時期ごとにまとめました。担当は一例のため、社内の分担に合わせて読み替えます。
| 時期 | やること | 担当 |
|---|---|---|
| 規程の施行時 | 窓口の連絡先と通報の流れを全社へ周知する | 人事総務・広報 |
| 従事者を指定したとき | 守秘義務と通報対応の実務を教育する | 法務・コンプライアンス部門 |
| 通報の受付から終結まで | 対応の記録を作成し、権限を絞って保管する | 従事者 |
| 定期的に | 体制の評価・点検と運用実績の開示を行う | 内部監査・法務 |
| 法令や規程の改正時 | 就業規則の懲戒規定との食い違いを確認する | 人事総務 |
従業員への周知と教育
規程ができたら、労働者や役員、退職者へ周知します。消費者庁の指針は、法律の内容に加えて、窓口の連絡先や不利益な取扱いの防止策など9つの事項の周知を求めています。手段は階層別研修や理解度テスト、社内イントラネットやポスターの掲示などです。
窓口で通報を受ける従事者には、守秘義務と対応実務について、通常の社員より踏み込んだ教育が要ります。消費者庁の実態調査では、経営トップのメッセージ発信と研修を両方行う企業ほど、窓口への通報件数が多い傾向が示されました。
出典:消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)」
記録の保管と運用実績の開示
内部通報への対応記録は作成し、適切な期間保管します。消費者庁の指針は、記録の保管に加えて、定期的な評価・点検と運用実績の開示も求めています。保管期間に法令上の年数はなく、点検のサイクルや個別案件の処理に必要な範囲を各社が判断します。
記録には通報者を特定させる情報が含まれるため、閲覧やアクセスの権限は絞ります。開示する運用実績には、一定期間の通報件数や是正の有無、対応の概要が挙げられています。通報が届かない背景に周知不足がある場合もあるため、指針は周知度を測るアンケート調査を点検方法の一つに挙げています。
就業規則との整合を取る
内部通報規程を作ったら、就業規則の懲戒規定と服務規律を突き合わせます。労働基準法第89条第9号は、表彰と制裁の定めを置く場合、その種類と程度を就業規則に記載するよう求めています。懲戒の根拠は就業規則側にあるため、規程だけを直しても現場の判断は割れたままです。
あわせて点検したいのが、通報を理由とする処分の禁止です。公益通報者保護法では通報を理由とする解雇や懲戒が無効となるため、服務規律が通報者への処分を許す形になっていないかを確認します。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法」
内部通報規程に関するよくある質問
内部通報規程の整備を進めると、法律上の義務の範囲や運用の線引きで迷う場面が出てきます。ここでは人事総務・法務の担当者から寄せられやすい4つの疑問に、公益通報者保護法の条文と消費者庁の資料をもとに回答します。
Q. 従業員300人以下でも規程は作るべきですか
常時使用する労働者が300人以下の会社では、規程の整備は義務ではなく努力義務です。公益通報者保護法第11条第3項が、300人以下の事業者について「定めるように努めなければ」と読み替える旨を定めています。
それでも規程を用意する実務上の利点は小さくありません。窓口と処理手順が社内に示されていれば、従業員は不正を早い段階で会社へ知らせやすくなります。社内で受け止める仕組みを欠いたまま、行政機関や報道機関へ情報が流れる展開も防げるでしょう。
Q. 匿名の通報も受け付ける必要がありますか
受け付ける前提で設計してください。消費者庁の「指針の解説」は、内部公益通報対応の実効性を確保するため、匿名の内部公益通報も受け付けることが必要であると明記しています。匿名の通報でも、法律上の要件を満たせば内部公益通報に含まれます。
ただし匿名では、追加の聞き取りができず事実確認が難しくなる場合もあります。同解説は、個人を特定できないメールアドレスやチャット形式の専用システムを使い、匿名のまま連絡を取り合う方法を例示しています。
Q. 内部通報をせずに行政機関へ通報されたらどうなりますか
社内の窓口を経ていない通報でも、労働者は保護の対象です。公益通報者保護法第3条第2号は、行政機関への通報を理由とする解雇を無効とする要件として、内部通報を先に行うことを求めていません。
同号が求めるのは、相当の理由があるか、氏名や通報内容を記した書面を提出するかのいずれかです。つまり社内窓口の利用は、行政機関への通報が保護される条件ではありません。
なお役員については、調査や是正の措置に努めたことが要件に加わります。社内で先に相談してもらえる窓口づくりが実務上の課題になります。
Q. ハラスメントの相談は内部通報にあたりますか
行為の内容によって分かれます。労働施策総合推進法は消費者庁が公表する対象法律の一覧に含まれますが、通報対象事実は刑罰や過料の対象となる事実に限られます。
同法のハラスメント防止措置に関する規定には罰則がなく、厚生労働大臣の助言・指導・勧告と公表が用意されているだけです。一方、暴行や傷害に当たる行為であれば、刑法が対象法律の別表に挙がっているため通報対象事実になり得ます。
線引きが難しいため、内部通報の窓口とハラスメント相談窓口を分けて運用する会社もあります。
出典:消費者庁「公益通報者保護法において通報の対象となる法律について」/e-Gov法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」
改正の施行日から逆算して規程を点検する
内部通報規程は、公益通報者保護法の体制整備義務を社内で運用できる形にした文書です。指針が求める事項を漏れなく定め、定めどおりに運用する必要があります。
2026年12月1日の改正施行に向けて、保護対象者の範囲と従事者の指定、不利益取扱いの禁止条項を早めに見直しておきましょう。
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